家にあった古新聞をなんとなく見ていたら、賞状書士養成講座の広告が出ていました。
字を書くことは好きなので、20年くらい前に「ちょっとやってみようかな」と思いましたが、この講座まだあったんですね〜。
賞状書士のお仕事とは
広告では「賞状書士」と書いてありますが、賞状だけに限定せず、宛名書きなど、筆で文字を書く仕事をしている人のことを総称して「筆耕」といいます。
読み方は、ひっこうです。
筆耕は接客をせず、ずっと筆を握っていて、ひたすら机から動きません。
長時間同じ体勢で仕事をしているので、腰痛に悩まされている人もいます。
のし紙に大量に名前を書く
下の画像は2021年10月頃の新聞です。

筆耕は、ギフトショップ、デパート、印刷屋、大型小売店等にいます。
ショップだと、お中元シーズンは数十個単位で注文されるので、筆耕はのしに同じ名前をひたすら書きます。
私が勤めていたショップは忙しくて現場は殺伐としていましたが、時は流れ、売り場の規模はどんどん縮小し、ついには跡形もなくなっていました。
昭和、平成前期まで需要は幅広くありましたが、現時点ではパソコンでのしを作ることが多くなり、リアルで筆耕を最後に見たのは、2019年頃でした。
賞状を書くための資格
賞状書士、筆耕は技術さえ身につければ仕事ができますので、特別な資格はいりません。
通信講座や独学で学ぶことも可能です。
ただ、技術は習得できても、仕事があるかは別の話で、ハローワークの求人情報を見ても賞状書士の求人はほとんど見たことがないですね。
賞状書士は儲かるのか
看板屋に勤務していた時にも筆耕がいましたが、年々仕事が減少したので、最終的には退職を勧め、筆耕の仕事が発生した時だけ、単発で外注していました。
賞状の受注金額は、1枚3,000円〜4,000円です。
1件の仕事に3人は関わっていて、筆耕は数時間かけて1枚書いて報酬は1,000円程度。
移動経費と人件費ですでに赤字です。
胸章のような小さい物は1枚1,000円で受注し、外注の筆耕報酬は300円程度になり、個人が努力して身につけた技術の対価として、全然見合っていませんね。
しかも、受注金額は経費(胸章リボン代)込みです。
仮に得意先があっても仕事の頻度は数ヶ月に1度なので、副業目的で賞状書士や筆耕の技術を身につけても、子供のお小遣い程度しか稼げません。
筆耕の過去と今後の課題
「昔、筆耕は先生と呼ばれ、人気がある先生は引く手あまた」という文献をどこかで見ましたが、現在筆耕の需要は減っています。
長年のお取引先には、物価があがっても値上げしづらいし、新規客に高額で販売しようとすると、よその安いところに流れるだけで、どちらを選択してもジリ貧になっていきます。
零細企業が人材を確保できなくなった時、仕事を外注や下請けに出すことが多くなりますが、全体的に仕事量が減った上に、「右から左に流すだけ」の業者が増えると、仕事の奪い合い、外注の奪い合いになります。
この状態が続いた場合の最大の損失は、技術が若者に継承されないという点です。
技術者の生活を守らずに誰かに丸投げして稼ぐやり方は、そう長く続かない気がします。
筆耕だけでなく、どの業種でも同じことが言えるでしょう。
インターネットが普及し「新聞や雑誌のような紙媒体はなくなる」と言われ出して、もう20年以上経ちましたが、どっこいまだあります。
雑誌の誌面ひとつとっても、20年前と今を比べると、アプリは進化しているし、同じ技法を使っていません。
技術者がどんどん高齢化していく今。
時代のニーズを取り入れて、元からある媒体を残しながら若者に技術を継承する方法を、一度考えなければいけない時期が来たのではないかと思いました。